研究内容

私の研究の目的は、太陽系外惑星(系外惑星)の性質や形成過程を明らかにすることで、宇宙、太陽系、地球、そして私たち自身をより深く理解することです。

これまでに、多くの太陽系外惑星が発見されていますが、その性質は太陽系の惑星とは異なることが分かってきました。

どのような惑星が存在しているのか?

地球のような惑星はどの程度存在するのか?

それらの惑星はどのように形成されたのか?

これらの問いに答えるため、系外惑星の観測を通じて研究を進めています。


近赤外線観測による系外惑星探査

M型星 (太陽質量の 0.5 倍以下の恒星) 周りの惑星検出を目指すプロジェクトである、赤外線位置天文観測衛星 JASMINE や、すばる望遠鏡近赤外高分散分光器 IRD による惑星探査サーベイ IRD-SSP に関連した研究を行っています。

JASMINE (Japan Astrometry Satellite Mission for INfrared Exploration)

JASMINE は、銀河中心の位置天文学と精密測光による系外惑星探査を行う日本の人工衛星計画です。JASMINE プロジェクトメンバーとして、データ解析・検出器開発に取り組んでいます。

リンク:JASMINEプロジェクト公式サイト

近赤外視線速度測定における地球大気吸収線の影響評価

視線速度法とは、惑星の公転によって生じる中心星のふらつきが、吸収線スペクトルにドップラーシフトを引き起こす効果を検出する方法です。IRD-SSP (InfraRed Doppler, すばる戦略枠観測) の主なターゲットである低温の晩期M型星(約3000K)の観測からは、より多くの低質量惑星の発見が期待されています。しかし、そのような惑星による視線速度変動は、測定時に生じる不安定性との区別が難しい場合があります。この不安定性の要因には様々なものが考えられますが、特にスペクトルへの地球大気吸収線の混入が大きな影響を与えるとされています。この影響の大きさを模擬スペクトルを用いて見積もり、より高い安定性を実現する可能性を探りました。

視線速度法の説明 (credit: NASA, https://exoplanets.nasa.gov/alien-worlds/ways-to-find-a-planet/?intent=021#/1)

参照:Yui Kasagi et al., “Assessing Earth’s atmospheric impact on near-infrared radial velocity measurements with IRD/Subaru”, Proc. SPIE 13096, Ground-based and Airborne Instrumentation for Astronomy X, 130962C, 2024


高分散分光スペクトルによる褐色矮星の性質調査

褐色矮星は、恒星と惑星の中間に位置する質量(太陽質量の約0.013から0.08倍)を持つ天体です。中心部で水素の核融合反応を継続するための質量には達していないため、年齢とともに徐々に冷えていきます。

すばる望遠鏡の IRD や REACH を用いて褐色矮星の観測を行い、その大気の特徴づけや、褐色矮星周りの惑星探査に取り組んでいます。

(Image credit: NASA, ESA, J. Olmsted (STScI))

褐色矮星の大気特徴づけ

すばる望遠鏡のREACH(Rigorous Exoplanetary Atmosphere Characterization with High dispersion coronography)は、近赤外高分散分光器IRDと極限補償光学SCExAOを組み合わせた装置で、明るい恒星の近くにある暗い天体の高分散分光スペクトルを取得することができます。この観測データにスペクトルモデルを適用し、大気の温度-圧力構造や分子の存在量などを推定する手法を利用することで、褐色矮星の大気の特徴を明らかにすることが可能です。

参照:博士論文 “Unveiling Atmospheric Features of Faint Substellar Companions from High-Resolution Near-Infrared Spectra”

視線速度法による褐色矮星まわりの惑星探査

これまでの理論進化モデルが予測するよりも暗い褐色矮星が、近年の観測で発見されています。このような褐色矮星には、未知の惑星質量天体が存在し、その影響で質量が過剰に測定されている可能性があります。しかし、その検証に必要な高精度の視線速度測定は、褐色矮星の暗さが大きな障害となり、これまでほとんど行われていません。すばる望遠鏡のIRD・REACHを用いた高分散分光スペクトルによって、視線速度法で褐色矮星周囲の惑星を探査し、進化モデルの検証と進化過程の解明を目指しています。これにより、褐色矮星や惑星の明るさから質量や年齢の推定が可能となり、惑星質量天体の大気構造の理解が進むことが期待されます。


非周期的な減光を示す若い恒星の特徴づけ

若い星の周りにある原始惑星系円盤内で、惑星がいつ、どこで形成されるかは、まだ解明されていない重要な問題です。これまでの観測で、円盤にあるギャップや渦巻き構造が発見されており、これらは形成中の惑星によるものと考えられています。しかし、星に近い部分の円盤構造やガスの流れについては、詳しく分かっていません。

この領域の様子を探る手がかりとして、近年の衛星観測から見つかっている、明るさが非周期的に変化する dipper と呼ばれる若い星が注目されています。この減光は、原始惑星系円盤内を公転する中心星付近の物質が星の光を隠すことで生じていると考えられています。

(Image credit: ESO/L. Calçada)

分光観測による dipper の特徴づけ

全天測光サーベイを行うTESS(Transiting Exoplanet Survey Satellite)のデータから新たに発見された4つの dipper 天体について、すばる望遠鏡の高分散分光器(HDS)などを用いて分光観測を行い、その特性を調べました。スペクトル中の輝線の特徴やその時間変動を分析した結果、これらのdipperでは、円盤風内のダストや傾いた軸を持つ磁場に沿った降着流が減光原因であることがわかりました。また、4つのうち1つの天体は、まだあまり例がない連星系のdipperであることが判明しました。今後のさらなる観測を通じて、連星系周りでの惑星形成について新たな知見が得られると期待しています。

参照:Yui Kasagi et al., “Dippers from TESS Full-frame Images. II. Spectroscopic Characterization of Four Young Dippers”, ApJS, 259, 40, 2022